ワインの寿命

デゴルジュマンとは?

L'œuvre du temps

時が織りなす業

Bruno Paillard

ブルーノ・パイヤールのシャンパーニュは、マルチヴィンテージなら平均3年、単一ヴィンテージなら8~12年かけてセラー熟成させます。瓶内発酵で生じた沈殿物は、放っておくとワインを濁らせ、サーブする際に透明感を損なうため、取り除く必要があります。

沈殿物を取り除くために、まずは瓶口付近に澱を集めなければなりません。この作業はルミアージュといい、8日間~5週間かけて行います。専用の木のラックにボトルを並べ、澱が瓶口に集まるよう毎日少しずつ手で回して傾けていきます。このルミアージュの作業は、ジャイロパレットと呼ばれる機械を用いて同じ作業を手動よりも精密な正確さをもって自動で行うことも出来ます。

ボトルが瓶口を下にして垂直な位置に来て、澱がコルク部分に集まり数mm程の厚さの層になったら澱を取り除きます。これをデゴルジュマンと呼びます。

デゴルジュマンのやり方とは?

デゴルジュマン自体は、ほんの数秒で終わります。元々は「アラボレ」と呼ばれる早業で、人の手でボトルを逆さにした状態で瓶口を開け、親指で瓶口を軽く押えながら少量のワインと共に澱を外に出し、即座にボトルを正立の状態に戻すという手法でした。この際、ボトルに残るワインは完全に透明でなければなりません。今日では、機械による作業でボトルごとのムラをなくし一貫性を維持すると同時に、完全な衛生環境の下で行われています。

デゴルジュマンの後

Bruno Paillard

デゴルジュマンの結果、様々な副作用がワインにもたらされます。これは、デゴルジュマンの際、外科手術を受けた後の患者のように、ワインがある種のトラウマを経験するためです。

醸造所で働く人々は「デゴルジュマン」を「手術」と呼び慣わしています。デゴルジュマン後のワインは、何をおいても休息を必要とするのです。 外科手術の場合と同様に、若いワインよりも古いワインのほうが長い回復期間を必要とします。

ブルーノ・パイヤールでは、この経験則に基づき、比較的若いプルミエ・キュヴェとロゼ・プルミエ・キュヴェは最低5ヶ月間、ブラン・ド・ブラン・グラン・クリュは8ヶ月間、他の単一ヴィンテージは8~12カ月間、N.P.U.は18ヶ月間の回復期間を設けています。

この回復期間中に、ワインは元の爽やかな爽快感とドサージュによる円やかな甘みとの間でバランスをとり、完璧なマリアージュが生まれます。

Les conséquences du dégorgement
Les vies après dégorgement

デゴルジュマン後のワイン

Bruno Paillard

回復期間後も、ワインの旅は続きます。複数の要因が組み合わさることで、ワインがどのような進化の道を辿るかが決まります。第一に品種本来の特性による進化の過程がよく知られています。冷涼なシャンパーニュ地方北部においては、畑による違いも著しいとは言え、品種による違いは大きいものです。例えば酸の高いシャルドネは、ライム等の柑橘系果実と白い花のアロマが、熟成と共にグレープフルーツ、オレンジ、砂糖漬けの果物の果皮の香りを帯びてきます。若いピノ・ノワールは、苺、ラズベリー、赤スグリ、チェリーなどの典型的な赤果実のアロマを湛えていますが、熟成と共にブラックベリーや黒スグリなどの黒果実とスパイシーな香りが表れます。ピノ・ムニエは、前述の2品種より通常酸が低いため、洋梨、バナナ、ライチなど甘く円やかな果実のアロマから、ケーキや砂糖漬けの果物、イチジクの風味へと発展していきます。ブレンド比率に大なり小なり影響を受ける品種由来の進化とは別に、デゴルジュマンのプロセスに起因する残り2つの要因も、非常に重要な役割を果たします。

完全なる自然現象として、ほんの少しずつゆっくりと進む微小な酸化現象が起こります。デゴルジュマン前の瓶内に酸素は残っておらず、発酵の際に全て炭酸ガスとなり瓶内に溜まります。このガスは、コルクを開けると小さな気泡となって瓶の外に放出し、この瞬間、少量の酸素が入り込み、その後瓶内で微小な酸化現象を引き起こします。

ワインの進化にとってもう1つ重要な現象が、最終的にコルクで栓をする前に数グラムの糖を添加するドサージュにより引き起こされます。この糖が微小なマデイラ化を引き起こします。ブルーノ・パイヤールのように極めてドサージュの低いワインは、非常に微弱でゆっくりした変化ですが、知覚可能な自然現象です。

この微小な酸化現象とマデイラ化の組み合わせにより、デゴルジュマン後のワインの進化の過程が決まります。

デゴルジュマンの後

Bruno Paillard

デゴルジュマンは、シャンパーニュの寿命の鍵を握る重要な瞬間で、この日からシャンパーニュ特有の熟成プロセスが始まります。アロマ、外観、味わいの進化の過程は、次の5段階に分類できます。

第1段階は、柑橘系果実や赤果実など果物のアロマが主体で、色調は非常に淡く、泡は細やかで生き生きとしています。これが果実の時代です。

第2段階は、白い花や薔薇など花のアロマが主体で、色調は第1段階と大体同じ、泡沫はより滑らかに感じられます。

第3段階は、スパイスの風味を帯びたアーモンドやヘーゼルナッツの香りのアクセントが特徴的な「スパイスの時代」です。

次に第4段階、焼いたパンの香りが表れる「トーストの時代」が訪れます。最終的段階として、ワインは砂糖漬けの果実、ジンジャーブレッド、蜂蜜、燻製の焦がしたような香りを帯びてきます。これが砂糖漬けの果実の段階、豊満/芳醇の時代です。

「果実-花-スパイス-トースト-砂糖漬けの果実」へと変化するこの熟成過程は、熟成の際の保存状態によって早くも遅くもなりますが、最初にスパイシーなアロマに到達するまで最低4~5年の年月を要します。

偉大なシャンパーニュだけがこのような進化の道を辿り、愛好家達は、こうしたシャンパーニュを他のコレクションと共にセラーに保管し、この進化の過程を心ゆくまで楽しみます。

Les conséquences du dégorgement

関連項目

Bruno Paillard

ワイン造りの工程

マルチ・ヴィンテージ・シャンパーニュ